2019年11月25日月曜日

Asia Traveling Fellowship紀行記


Asia Traveling Fellowship紀行記

大阪市立大学整形外科 玉井孝司

平成20年度入局、後期研究医の玉井孝司と申します。この度、日本脊椎脊髄病学会が行う14Asia Traveling Fellowshipとして台湾・タイを各5日ずつ訪問させていただきましたので報告致します。

5日間で5病院、各病院で熱烈歓迎。体力と多くの名刺を駆使して走り抜けた国、台湾】
20191028日から111日まで台湾を訪問致しました。台湾では、ホストをおつとめ頂いたShin-Tien Wang(王世典)教授の計らいで、5日間全て異なる施設を見学することが出来ました。

1日目 Taiwan Medical University Hospital:ホストをTsung-Jen Huang(黄聰仁)教授につとめて頂きました。病院内の見学後、症例検討と私達の研究発表を行い、その後の手術ではTLIFを見学しました。台湾ではインプラントを用いる術式に関して政府機関から事前審査・承認を受ける必要があり、また保険でカバーされるインプラント数に制限がある事を知りました。夜は高級中華料理を頂きました。Hunag教授のお誕生日が近かったことから、教授秘書と若手先生の計らいで用意されたサプライズの誕生日ケーキも堪能しました。

2日目 Mackay Memorial Hospital:ホストをTing-Kuo Chang(張定國)教授につとめて頂きました。お昼時にはランチをかねて新北市内観光にお連れ頂きました。手術見学後には、整形外科レジデント達と歓談を行いました。その際に、「研究はどのように進めたら良いのか」、「日本に研修に行きたいがどうすれば良いか」といった質問を受け、台湾の若手医師の熱意に触れることが出来ました。

3日目 National Taiwan University Hospital:ホストをShu-Hua Yang(楊曙華)准教授につとめて頂きを見学致しました。手術はSSEP/MEPを併用し、KlippelFeil syndrome症例の頭蓋頸椎固定術後ロッド折損の再手術を丁寧に行われておりました。また国立台湾大学のメインキャンパスを案内して頂きました。台北市内の喧騒が嘘のような静けさの並木道を中心とした趣のある大学構内を観光しました。夜のディナーには、台湾脊椎外科の父であるPo-Quang Chen(陳洪光)名誉教授にもお越し頂き、大いに盛り上がりました。(写真1)

4日目 Taipei Veterans General Hospital:ホストをMing-Chau Chang教授(張明超)Shih-Tien Wang(王世典)教授につとめて頂きました。病院は3000床以上ある台湾最大のマンモス病院で、私達が訪れた日も全科合計で100件以上の予定手術が組まれていました。Chang教授は頸椎人工椎間板置換→ PLIF TLIF FEDTLIFと次々に部屋を移動しつつ執刀されており、さらにその間隙に私達をランチと陽明大学キャンパスへの観光へ連れ出して頂きました。また夕方の病棟回診前に、Chang教授を筆頭にレジデントが病院2階に集合して18階まで階段を上る、恒例の「小運動」が行われます。当然スーツ姿の私達も参加致しました。

5日目 Hualien Tzu Chi Hospital:台北・松山空港から飛行機で台湾東部の花蓮市に移動しての研修でした。ホストをWen-Tien Wu(吳文田)教授につとめて頂きました。この病院は仏教系の病院で、院内各所に仏教の影響を感じさせる雰囲気がありました。カンファレンスでの私達の研究発表の後、Tzai-Chiu Yu教授ご執刀の、腹膜外前方アプローチによるL5/S ALIFを見学しました。驚くべきことに、その日にはTKAもご執刀とのことでした。午後には太魯閣(タロコ)観光を手配して頂き、圧巻の絶景を堪能しました。

いずれの病院においても、短時間ではありますが、手術見学からカンファレンス参加など現地の医療に生で触れることができました。台湾における保険診療の厳しい制限の中、内視鏡手術や椎体形成術などの低侵襲手術を積極的に取り入れようすとする姿勢など、学ぶべき事が多い訪問となりました。また、夜には若手の先生も含めた歓迎会を各病院で開催頂き、現地の若手脊椎外科医とも新たな交流を得ることが出来、実りの多いFellowshipとなりました。

【毎朝7:30から全力でレジデント指導。教育と文化を重んじる国、タイ】
20191111日から15日までタイを訪問致しました。Torphong Bunmaprasert准教授にメインホストをおつとめ頂き、チェンマイ大学病院を5日間かけてじっくりと見学出来ました。

朝カンファレンス:月曜から金曜まで、毎朝730分からカンファレンスがあります。構成は前夜に救急を受診した外傷患者の概説→レジデントの勉強発表の流れです。月曜にはネイティブ講師による英語講座もありました。レジデントは整形外科各分野のセクションに別れ、毎日好きなトピックについて発表をします。私達がいた週は「骨代謝」グループが発表担当でした。上級医が詳細なコメントや質疑応答を行い、毎日1-2時間程度をかけて行います。またカンファレンスでは「幸せとは何か」「チェンマイの歴史について」など文化的な側面のディスカッションも行われており、非常に印象深いものでした。

病棟回診:チェンマイ大学病院には旧棟と新棟があります。各病棟とも8人の大部屋と個室があります。脊髄損傷患者用の特別室(6人部屋)もあり、そこには専属ナースがついています。脊椎チームの術後・術前病棟回診を見学した際も、若いレジデントに神経所見の取り方・解釈の仕方などを丁寧に指導されており、ここでも教育力の高さを目の当たりにしました。

外来:チェンマイ脊椎外科のレジェンドであるKorku Chiengthong元教授の外来を拝見しました。多くの外来患者の診察では、非常に丁寧に神経学的所見の評価をされておりました。また症例に対する熱いディスカッションさせて頂き、ここでも学生やレジンデントに対する教育的な指導に多くの時間を割かれているのが印象的でした。

手術:Korku Chiengthong元教授の3椎間ACDFと、Torphong Bunmaprasert准教授の胸腰椎移行部後方除圧固定、Dr. Nantawit Sugandhavesaの腰椎除圧術などを拝見しました。基本的な術式ではありますが、各手技を非常に丁寧かつ確実に行われていました。タイでも台湾と同様に、PLIFでは椎体間ケージは1つしか保険適応が認められず、新しいインプラントや人工骨・止血剤なども保険でカバーされないため、費用は原則患者負担する事になるようです。チェンマイ大学病院にはO-armもありましたが、その使用にも追加費用が必要とのことでした。改めて日本の保険システムの「優しさ」を痛感致しました。

タイ文化:私達のチェンマイ訪問期間中、幸運にもチェンマイ最大のお祭りであるイーペン祭りが開催されました。タイ整形外科学会のゴッドファーザーであるSompant Padungklet前教授のご厚意で、チェンマイ市内にある大きなお寺(ワット・スワン・ドーク)でイーペンのお祈りを捧げる機会を頂き、翌日にはパレードを最前列で鑑賞させて頂きました。別日には、チェンマイの街を一望できる山の山頂付近にある、歴史的な寺院であるワット・ドーイステープ、さらには王宮を案内して頂きました。ここでもSompant元教授のご厚意でVIP待遇をして頂きました。

早朝カンファレンス・病棟回診・脊椎外来・手術などを見学させて頂き、特に手術では見学のみではなく、手洗いをして実際の手術に参加させて頂きました。また、タイでは「教育」に対する意識の高さに驚かされました。カンファレンス・外来・手術いずれもレジデントや医学生ファーストで行われます。今後、タイの脊椎外科が、ますます発展していく可能性強く感じると同時に、自施設においてもこれぐらいの熱量をもって後進の指導に当たる必要を再認識致しました。

【最後に】
台湾・タイにおいて非常に充実した研修、及び、現地の脊椎外科医師との新たな交流を開始することが出来ました。また、今回のtraveling fellowshipにより他国の医療環境に触れることで、日本における脊椎診療の強みを再確認することが出来ました。同時に若手脊椎医師教育・育成の重要性も痛感いたしました。ご多忙を極める中、2週間も海外研修を行うことをご許可いただきました中村博亮教授をはじめ大阪市立大学病院脊椎班の皆様に、この場をお借りして厚く御礼申し上げ、ご報告とさせて頂きます。



写真1:National Taiwan University Hospital訪問時の歓迎会にて


写真2:イーペン祭りでの一枚

当科スポーツ整形外科が読売新聞の紙面に掲載されました!

  読売新聞の紙面「手術か保存か アキレス腱断裂治療法選択」にて 当科スポーツ整形外科が紹介されました!